お知らせ

『SHAME-シェイム-』感想・考察レビュー!とある依存症を扱った異色の映画…「汚らわしい」とは何なのか

スポンサーリンク

邦題:SHAME-シェイム-
原題:Shame
公開年及び国:イギリス(2012年)
上映時間:100分
監督:スティーヴ・マックィーン

<キャスト>
ブランドン・サリヴァン(依存症に悩む会社員):マイケル・ファスベンダー
シシー・サリヴァン(妹):キャリー・マリガン
デイヴィッド(上司):ジェームズ・バッジ・デール
マリアンヌ(同僚の女性):ニコール・ベハーリー
地下鉄の女(すれ違った既婚者):ルーシー・ウォルターズ

<概要>
NYでエリート会社員として過ごすブランドンは、深刻な強迫性行動症に悩んでいる。とうとうその問題が自身の社会生活にも悪影響を与え始めた頃、妹のシシーが家に転がり込んできた。しかし妹の存在はある種のストレスとなり、ブランドンの依存症に無理な抑圧をかけていく。

<こんな人におすすめ>
・珍しい設定が見たい
・主人公の弱さや辛さを感じたい
・社会問題に触れる映画を観たい
・考察の余地のある映画が好き

<こんな人にはおすすめしない>
・性的な表現がある映画は嫌
・主人公は清廉潔白であって欲しい
・全ての問題がエンディングまでに片付いて欲しい
・ハッピーエンドじゃないと嫌

【個人的な評価】

ストーリー
★★★☆☆☆☆☆☆☆


画面映え
★★★☆☆☆☆☆☆☆


ユニーク
★★★★★★☆☆☆☆

強迫性行動症を扱ったという異色の作品ですが、前提としてある程度知識がないと観ていて分からないところもあるかも。ですが、最悪の事態に陥った依存症の末路の一例をフィクションとして示してくれます。

【ネットでのおおよその評価】

・依存症に関心を持った、心を痛めた
・主人公の苦労が表現されている
・独特
憂鬱さがある

・兄弟の過去がよく分からない
・ストーリーが楽しくない、主題が分からない
・妹が嫌い

依存症をテーマにした作品ですが、主人公のする行動の理由が不明で映画そのものがよく分からないといった感想になりがちのようです。また、兄妹の背景が不明であるところを考察して楽しむのか、不備だとして不満に思うのかにも個人差が出ます。

NYでエリート会社員として過ごすブランドンは、深刻な依存症に悩んでいます。そしてついにある日、社会的な地位が危ぶまれる事件が起きてしまいました。幸い解雇にはなりませんでしたが、己の最も知られたくないことが社内の一部に露見します。

その一方、ブランドンとは対照的に自由奔放な歌手である妹のシシーが家に転がり込んできます。私生活に女性、しかも親族が入ってきたことにより、ブランドンは日常に強いストレスを感じるようになりました。

ブランドン本人とて、自身に問題があることは分かっているのです。解決するために彼は様々な方法にすがるようになったのですが…

※『シェイム』はR18レーティングのついた作品です。ですが、依存症という問題に向き合うことがメインであるため、決して楽しい気分や高揚した気分になる映画ではありません。

ブランドンが患っているのは、依存症の中でも強迫性行動症と呼ばれるものではないかと思います。ポイントは日常生活に支障が出ているかどうかといわれており、国際的なICD-11という基準によると、強迫性行動症として以下のような診断基準があります。

・衝動や行動をコントロールできない。
・行動が他の活動や責任を犠牲にして優先される。
・行動が原因で家庭や社会などに重大な問題が起きている。
・これが6か月以上続く。

ブランドンはこれががっつり出てしまっているんですね。特に彼は端的に言うと社会的な死を味わうとかいうかなり深刻な状況になっていました。具体的には会社のPCにヤバい画像をダウンロードしまくっており、その結果PCがウイルスに感染して上司にフォルダの中身がバレてしまうという大変な事態に陥っています。男なら考えたくもない事態です。

でもいい年の大人なら、会社のPCでは絶対そんなことしちゃいけないって普通分かるじゃないですか。実はブランドン自身はめちゃくちゃアホとかそういうわけではないんですよ。会社ではそれなりにいいポジションっぽくて外面もいいんです。ベビーカーの母子にドアを開けてあげるような親切心すら持っています。なのに衝動が抑えきれないんです。

じゃあどんな時に彼はその衝動が出てしまうのかというと、おそらくですがストレスに密接に結びついているような気がします。ブランドンがヤバいことをしている時は、そのほとんどが何等かのストレスを感じている時でした。ストレスの対処法として頭の中のサイクルに組み込まれてしまったことから抜け出すのは、非常に難しいといわれています。ブランドンもおそらくそういうタイプなのでしょう。

じゃあほかのストレス発散したらいいじゃんとか、そんな危ないことやめたらいいのに!とは思われそうなんですけれど、脳に浸み込んでるレベルのストレス発散方法ってそんな簡単に切り替えがきかないらしいんですね。どのくらいきかないかというと、アルコール依存症や喫煙習慣を治療するクリニックが存在するほどです。

そしてブランドン自身もそこに苦悩していることが映画では描かれます。ただの堕落しきったダメ男だとか、そういう話ではないんですね。

ブランドン自身、実は依存症である自分のことを恥だと思っているようなところがあります。社員の「汚らわしい」「病気だ」という言葉に反応しているので、社会的に自分がヤバいということを認識できているんですよ。しかし、会社ですべきことでないことをしたり、日常的に女子社員をガン見したり、そして帰宅した後はずっとその手の媒体を見ているといった生活を繰り返しています。やるべきではないと本人が分かっているのにやめることができないんですね。

ただ、彼自身も何等かの対策を取ろうとしています。頻繁にクラシックをかけたり、ジョギングに出たりなんてこともしています。これは「ストレス発散方法」とかで調べるとよく出てくる対策ですね。ブランドン自身も衝動がストレス起因であると気付いているのかもしれないんです。また、ブランドンは社会生活に影響が出てしまっていますが、本人には本人なりの倫理観があります。

大きく2つありまして、妹を「そういう目」で見ないこと既婚者は狙わないことという一般的な倫理観があるんです。これが観ている人に色んなことを考えさせます。

実はブランドンにはヤバい上司がいます。具体的にどうヤバいかというと、既婚者なのに部下の家で部下の妹と寝るような男です。一般的な感覚でいえば、PCにヤバい画像入れてるやつよりヤバいでしょう。だって法律に引っかかるじゃないですか、こっちは。で、そんな男がブランドンに対して「お前は汚らわしい!狂ってる!」とか言うんですよ。

もっと単純化すると、表向きの顔はいいけれど部下の妹に手を出すし法律的にも引っかかってる上司と、法律には引っかかってないけど仕事のPCに不適切なものを入れちゃって問題起こした部下と、どっちが汚らわしいかって話なんですよね。

どっちも勿論ヤバいとは思うんですが、上司はアクティブに自分から社会ルール(法律)を破っています。ブランドンは社会ルール(法律)を破るつもりはないんですけれど、一般的な人から見て逸脱している行動を取ってしまっています。

これ辛いのが、上司は明らかに離婚騒ぎになりそうな社会ルールを破っているのに、実はブランドンの方が自分と周囲に与える影響がデカいんですよ。上司の件は、奥さんにバレさえしなければ家庭は守られます。上司の生活には何の影響もありません。会社にも何の迷惑もかけていません。ところが、ブランドンは仕事や日常生活に影響が出ており、PCもウイルスに感染させ、実は自分のプライベートの恋愛にも強い影響が出てしまっているんです。

簡潔に言うと、普段から刺激の強いことをしていると本命の女の子との恋愛に影響が出るんです。ブランドンは自分の恥を断ち切ろうと色んな努力をしているんですが、長期関係を望む女の子と付き合っただけでは「正常」にならないんですよ。それどころか無理にストレスを抑え込んだ反動でよりトラブルが起きてしまいます。

ブランドンの衝動はストレスに起因しているという話でしたが、実は依存症の衝動以外でもよくないことが起きています。ブランドンにはシシーという妹がいます。奔放で社会的に成功しておらず、男に依存してしまうという悪癖がある女性です。ブランドンは自分がうまくいかないことがあると、シシーという自分よりももっと悪そうな存在(社会的地位や資産、倫理観が劣っている)をなじるんですね。

自分よりも悪い奴がいるということに安心し、自分のことを棚上げで攻撃するんです。これがまさしく、ブランドンのヤバい上司と同じ構造なんですよね。

ネットでは「ブランドンはシシーのことが好きなのかどうか」という疑問をたまに見かけます。これは諸説あると思うんですけれど、自分は「ありうる」とは思いましたが、その説は個人的にはイマイチ推さないです。正確に言うと、シシーが好きなのではなくて「女性」に反応してしまう→その「女性」に妹が含まれてしまうという話のような気がします。

まずブランドンとシシーは対照的な存在です。

・シシー
一途に誰かを愛することができる。
いきずりの肉体関係が持てる倫理観であることを隠していない。
相手に精神的に依存。寄りかかる相手を探す。
誰かと一緒に暮らせる。

・ブランドン
一途に誰かを愛することに憧れはするがうまくいかない。
いきずりの肉体関係が持てる倫理観であることを隠している。
肉体的な欲望に依存。一人を好み女の子は自分から捨てる。
誰かと一緒に暮らすことに苦痛を感じる。

ブランドンは時にはシシーに強く当たるんですけれど、実は彼が最もストレスを感じるのは、シシーが逸脱した行為を見せた時です。とにかく妹がらみになると怒鳴ったり、激しいストレスを感じたりするみたいなんですね。そのため、「シシーが好きなのに付き合うことはできないジレンマ」という説が出るのではないかなと個人的に思います。

ですが、ブランドンがシシーに攻撃的になるのは題名でもある「恥」に起因しているのではないかと思います。まず、ブランドンは自分のことをシシーよりも倫理的だと思っています。シシーや上司の行動に批判的ですし、妹が触れてくれば激しく拒絶します。しかし、実際には依存症に陥っている自分の方が彼らよりもそういうことを一日中考えているんですね。つまり、相対的に自分が最も恥ずかしい存在であると思っている可能性があります。

「既婚者と浮気をすること」は法律的にもアウトであり、ブランドンは非常に毛嫌いしています(このへんが描かれていない兄妹の家庭環境に関係しているかもしれません)。ですが、「人妻と浮気したことのある奴」と「会社のPCにヤバい画像を入れて、女性を日常的に不埒な目で見て、行きずりのワンナイトも平気でする奴」ってどっちの方が嫌悪感強いかというと、多分一般的には後者の方が強いんですよ。法律的に罪が重いとかじゃなくて、ただただキモいわけですね。

当然ブランドン本人もその「キモさ」には気付いています。でも会社のPC以外ではバレていません。しかしプライベートなスペースに「親族」であり「女性」である妹が乗り込んできたことによって、逃げ場がなくなってしまいました。依存症によって妹すらも「女性」にカテゴライズされてしまうんです。

それが彼の言う「妹が生活をめちゃくちゃにする」に相当する部分だと思います。ですが、上司に苦言を呈されているのは依存症が原因であって、シシーには「お前のせいで俺まで堕ちていく!」とまで言われるいわれはありません。妹が既婚者と浮気していようが失職しようが、本来は同居している兄貴のキャリアや恋愛と関係ないです。「堕ちていく」っていうか、「認めたくない姿を突きつけられた」に近いかもしれません。

ですが実際、ブランドンはプライベートでストレス発散ができなくなり、生活を壊されました。自分よりも倫理的に良くない行いをしている妹のせいで生活バランスは崩れ、妹に現場を見られたことで相対的に自分は妹などよりも恥ずかしい奴であると突きつけられます。

ところが、ブランドンの生活が本当に壊れたのはシシーが来たことが直接の原因ではありませんでした。実は、なんとか真面目に立て直そうとした結果、衝動を抑えるものを失って生活が壊れたんです。これが依存症の闇深いところなんでしょうね。禁煙外来だって「いきなり全部止めましょう!」とか言わないですからね。

そしてブランドンの持つ依存症の深刻なところは、「周囲に相談しづらい、理解を得られない、治療に行くことがそもそも恥」という認識を本人が持っているところだと思います。ブランドンが深刻なアルコール依存症であれば多分シシーに相談できてるし、酒を飲む兄貴を見て止めるじゃないですか。でも、強迫性行動症はそうもいかないというところがあると思います。その症状に悩む兄貴の姿を見た妹は通常「キモイ」と思う確率の方が高いからです。

別に楽しいワクワクを期待して見た映画ではないんですけれど、ちょうど依存症に関する本を読んでいたので手にとって見ました。これは人によって評価分かれるんじゃねーかなとは思っていましたが、やっぱり分かれてる感じはしましたね!

依存症の中であえてこれをテーマに選んできたというのが斬新だなと思います。だって、依存症の中でもすごく人に言いづらい依存症なんですよね、これは。一般的には「そういうことは人目につかないようにしておかなければならない」っていう暗黙のルールが世の中にはありますから、周囲からの理解をえられないというのが何より辛いところでしょう。

例えば、部下がめっちゃアルコールやってて朝から酩酊していて仕事でミスったとか、タバコをしすぎて大事な商談の時にイライラして失敗したとかだったら「お前の生活(健康)、大丈夫かよ?」って心配(口出し)がしやすいじゃないですか。アルコールもタバコも、皆表立ってしている行為の一つだからです。

ところが、ブランドンの依存症については「表立ってするものではない、プライベート性の高いもの」なんですよ。だから口出ししにくいですし、そもそも世間一般で恥であるという概念が強いので、その症状で苦しんでいる人は自分のことを隠すでしょう。同僚に「俺禁煙外来行っててさ~」みたいなノリで言える話ではありません。

この手の依存症の治療クリニックも実はあるんですけれど、患者の多数は「犯罪をして捕まって弁護士に勧められて来た」みたいな話を聞いたことがありますから、自力で行くハードルもかなりのものです。そんな中、ブランドンは頼る者もなく独断で立て直そうとして失敗してしまうのです。恥だと思うからこそ取った行動でどんどん堕ちていってしまう…という厳しい状況が描かれました。

また、強い深刻さを示すブランドンの号泣シーンなんですけれど、あれを見て「シシーがすごく好きなんだ」という判定をする人もいるっぽいんですが、自分は違うと思っています…足元見てもらったら分かると思うんですけれど、泣き崩れ方がなんか変なんですよ。この手のシーンであんな崩折れ方する?!っていう。

多分ですが、シシーが入院したことを機に彼女の深刻な状況が判明してしまい、ブランドンに強いストレスを与えたんだと思います。そして強いストレスがかかったということは、依存症の衝動が発生している可能性があります。というか、発生したんだと思います…それを機にブランドンの心は変わってしまいました。

その後、ブランドンは自身が守っていた倫理観の一つを手放していることが示唆されています。婚約指輪をしている美女が出てくるんですよね。人妻っていうことは、短期的な関係がもてて、一緒に暮らさなくていい女性ということです。つまり、本来自身が毛嫌いしていた上司や妹のような倫理観のなさを会得してしまっているんです。

これ結婚指輪じゃなくて婚約指輪っていうのもポイントだなあと思いました。いきなりドーンと倫理観を突破するんじゃなくて、「まだ正式に結婚していない子(法律的には問題ない?)」に興味がわいてるっていうことですからね。じわじわ倫理観が溶けてきているというか。社会ルールは守っていたブランドンが一歩踏み出してしまった瞬間なんですよね。

↓こちらからアマゾンプライムの該当ページに飛べます。

楽天ブックス
¥1,650 (2025/02/28 17:22時点 | 楽天市場調べ)
\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場

コメント

タイトルとURLをコピーしました