ハッピーエンドではないからこそ与える感銘
教科書に採用されていたかは忘れてしまったんですが、『よだかの星』は宮沢賢治の童話の中でも美しい物語だと思っています。有名なお話なので後程物語の顛末を言ってしまいますが、衝撃的な展開は読み聞かせというよりも、小学生高学年くらいの子が自分で選んで読むタイプの本じゃないかな?と感じますね。「物語を楽しもうね」というより、「名作に触れよう」という趣旨の絵本かなと思います。
対象年齢は出版社によってかなり幅広く、6歳~とする出版社(ミキハウス)もあれば、小学校中学年(偕成社)、小学校高学年(文研出版)など様々。正直、大人が読んでも感銘を受ける本ですので、以前紹介した『怖い本』よりも気軽に手に取れますね。
あらすじ
よだかは外見が醜いという理由で、森中のみんなから嫌われている鳥です。特に鷹は自分と名前が重なっていることが気に入らず、改名を迫るほどでした。
生きることに失望したよだかは、死を求めて夜の空を彷徨います。落ちているのか、上っているのかも分からないまま闇を突き進み、やがてよだかは星になったのです。
感想
この絵本は読み聞かせに向かないとご説明しましたが、そもそも以下の点から、ちょっと読む対象を選んでしまいそうな絵本なんですね。
①1ページあたりの文章量が多い
②昔ながらの文章なので現代人にはちょっと読みにくいかも
③展開が悲しい
特に、③です。「性格が善良なのに外見だけで嫌われているよだかが独りぼっちになって救いもなく死んでしまう」こと自体も悲しいのですが、実はよだかにはよだかを嫌っていない兄弟がいるのです。兄弟のカワセミは死を覚悟したよだかに何か感じますが、それでも引き止めることができませんでした。
「善良であれば報いがある」「外見で人を判断してはいけない」「手を差し伸べてくれる家族や仲間がいたら救われる」という、誰しもがどこかで習う善なる常識全てが、覆されます。
「どうしてこんな悲しいことになったの」「なんでよだかは助からなかったの」と聞かれた時に、大人ってなんて答えたらいいんでしょうね…しかし、『よだかの星』はとても悲しくやるせない一方で、実は忘れてはいけない大事なことも教えてくれます。
一つ目は、鷹に改名を迫られた時、よだかはそれを受け入れなかったことです。自分の外見がどんなに嫌われていようとも、自分の名前は捨てませんでした。
最終的によだかは命を落としますが、それはよだか自身が選んだことであり、周りのもの達に決められて「よだか」という存在を直接的に消されたわけではありませんでした。むしろ、よだかが自分の世界から森を捨てたようにも思えるのです。
二つ目は、全てに拒絶されたよだかが夜の空を滑空している時に上げた一声です。よだかはもともとシルエットや鳴き声が鷹に似ているのですが、この鳴き声を聞いた森の鳥たちは震えあがります。
姿が見えていると真正面から悪口を投げかける鳥たちも、闇の中から声だけが聞こえれば恐れるのです。よだかは自己肯定感が低く、それ故に死へと飛び立ちますが、他の鳥たちが思うようなみっともない鳥などではなかったのです。
死を描いた悲しい物語ですが、逆に生を強く感じる美しさに魅力があります。色鉛筆調で描かれた日本昔話といった雰囲気の絵柄は、登場する鳥たちに強い擬人化を施しませんでした。感情がしっかり乗っている絵柄も伝えたいことがダイレクトに伝わって素敵です。しかし、この『よだかの星』は始終まん丸の目のよだかの絵柄が、絵よりも文字や言葉そのものから強い感情を感じさせるように思います。
今回読んだのはミキハウスの絵本でしたが、『よだかの星』は色んな出版社が絵本を出しています。別の絵柄にも触れてみたいですね。
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