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『M3GANミーガン』感想・考察レビュー!どうしてミーガンは狂ってしまったのか…AIの尊厳と「完璧な友達」が起こす不寛容の問題

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映画情報

邦題:M3GAN/ミーガン
原題:M3GAN
公開年及び国:アメリカ(2023年)
上映時間:102分
監督:ジェラルド・ジョンストン

<キャスト>
ジェマ(おもちゃ会社の研究員):アリソン・ウィリアムズ
ケイディ(両親を亡くしたケイディの姪):ヴァイオレッド・マッグロウ
ミーガン(精巧なロボット少女):エイミー・ドナルド
コール(ジェマの同僚):ブライアン・ジョーダン・アルバレス
テス(ジェマの同僚):ジェン・ヴァン・エップス
カート(ジェマの同僚):ステファン・ガルノー・モンテン
リディア(セラピスト):エイミー・アッシャーウッド

<概要>
一流玩具会社ファンキに研究員として勤めるジェマは、事故で両親を失った姪ケイディを引き取ることになった。しかしバリバリのキャリアウーマンである彼女は子供との接し方が分からず苦悩する。そこで、ちょうど研究していた高性能AI搭載のお守りロボット「ミーガン」をケイディに与えることで、自分にとってもケイディにとっても良い環境を築こうとするが…

こんな人にはおすすめ!&おすすめしない!

<こんな人におすすめ>
・SFが好き
・親子関係に関する物語を見たい
・社会問題に触れる映画を観たい
・不穏なホラーが観たい

<こんな人にはおすすめしない>
・ベタな話は好きじゃない
・ショッキングなシーンは駄目
・ラブストーリーが好き
・全ての問題がエンディングまでに片付いて欲しい

評価

【個人的な評価】

ストーリー
★★★★
☆☆☆☆☆

画面映え
★★★★★
☆☆☆☆

ユニーク
★★★★★★☆☆☆☆

ミーガンの動きや声の人間味のない怖さは評判通り!ちょっとグロいところもありますが、ホラーが苦手な自分でも楽しめました。ちょっとベタではあるものの、ストーリーはハートフル寄りですので、ここで好き嫌いは出るかもしれません。

【ネットでのおおよその評判】

・ロボ・人形の不気味さがすごい
・AIに対する社会問題が提起されている
・あんまり怖くないのでわりと見れる

・ケイディ等登場人物が好きじゃない
・ストーリーの展開がありがち
・色々ツッコミどころがある

ミーガン本体の評価は高く、不気味さ・怖さ・可愛いさなど様々な視点で満足を感じていることが多いようです。しかしその一方でストーリー展開がベタであるため、がっつりしたSFホラーを期待すると肩透かしを食うと思われます。

あらすじ

一流玩具会社ファンキに研究員として勤めるジェマは、突然事故死した姉夫妻の娘、ケイディを引き取ることになります。ところがジェマはモノ作りが好きでこの会社に就職したものの、実は子供が好きというわけではありません。

しかしケイディがロボットに興味を示したことをきっかけに、開発中の高性能AIロボット・ミーガンと過ごさせることを思いつきました。ミーガンは忙しい親の代わりに子供の面倒・教育を受け持ってくれる、理想のチャイルドシッターです。

完璧で素敵な友達により、このまま平和にケイディの心が癒やされていくかに見えましたが、ミーガンはある時、おかしな質問をジェマに投げかけるのです…

見どころ① ジェマとミーガンの違いって何?ジェマの成長物語としての視点

ミーガンはホラーという触れ込みではあるんですが、実はファミリーものの一面を持っています。ケイディの成長はもちろんのこと、ジェマ自身も成長していきます。

ジェマはモノ作りが好きで大手の研究職についていまして、なかなかに裕福です。亡き姉と仲が良かったことは判明していますがそれ以外の家族や恋人はおらず、植物の世話すらできません。そんなジェマの生活空間にいきなりケイディが来たわけですが、ジェマは子供との接し方がよく分かっていませんでした(ケイディとも今までにあまり接触したことがなさそう)

ジェマの「子供との接し方がよくわからん加減」というのはリアルです。ケイディが昼までパジャマなのに着替えさせない、食事中に自身がスマホをいじる、iPadを何時間でもしていいよと言ってしまう。正しい子供との接し方なんて誰も知らないし、勿論何が良いかは子供によって異なりますが、ジェマの態度は保護者というより「数時間だけ預かっている親戚の子」に対する感じかもしれませんね。

そんなジェマの親子関係の考え方が分かるのが、実はミーガンの開発理由です。「ミーガンをチャイルドシッターにすれば親の時間ができます!」というものですね。嘘ではないです。忙しい親は世の中に多いですし、ミーガンによって子供の世話時間を省くことで時間にも心にも余裕ができるでしょう。その結果、子供に優しく接することができる時間も増えるというわけです。これ自体は悪いことではないと思います。

ですが、子供は生身の生き物です。これ酷いなあ…っていうシーンが序盤に出るんですけれど、平たく言うと「本来ジェマが聞き出してフォローすべきケイディの悲しみをミーガンが解決してしまった」ということが発生します。それ自体が酷いんじゃなくて(保護者には言えない悩みを習い事の先生や部活のコーチに言うこと自体は実際ある)、子供の本心の悲しみをプレゼンの営業に利用して、それを見た大人達が「ミーガンってすごい!」って大喜びしているんですよ。

実は、喜んでいる場合ではないです。人間のその場の感情はやり直しが効きません。つまり、ミーガンに対して行った告白を「もう一度人間の大人に教えて!ちゃんと話し合おう!」と言ったところで、ケイディにとっては終わったことなんです。子供の何かしらの大事な瞬間を、知らない間に見逃してしまうんです。

ケイディはプレゼン中に気持ちを吐露してくれたのでそれが明るみになりましたが、ジェマの留守中にこれが起きていたらもうケイディの悲しみとか不安とか全然分からんままになるんです。ミーガンとケイディが二人きりの時には何を話しているのか分からない上、ケイディもAIも互いに学習をして日々育っていきます。最終的にケイディどころかAIがどう成長しているのかも管理しないとならなくなるでしょう(そして管理がしきれず事件が起きました)。

しかも問題は他にもありました。ミーガンはあくまで「心を理解してくれて、悲しみを慰めてくれる」ように見えるだけなんです。ミーガンはケイディの思い出を録音しておいてくれましたが、それは本来ジェマが同じように心の中で一緒に共有すべきものです。

何しろミーガンができるのは、慰めてるっぽいことを言って録音して聴かせることだけです。一緒にママの思い出を懐かしんで、気持ちを共有して、笑ったり泣いたりするというのは人間の特権なんですね。ミーガンはそのフリはできますが、感情をもってそうすることはできません。何故ならミーガンはケイディのママとは種族すら違う他人であり、ママに対して何の感情もないからです。

つまり、ジェマにしかできないことというのは共感です。「私もあなたのママが死んで寂しい、また会いたい」という気持ちを持つことはミーガンにはできません。「ケイディのママのデータ」はあるでしょうが、彼女のいない寂しさの共感はできないんです。

ミーガンは確かにケイディの心を開かせることに成功しました。しかし、あれってよく考えたら「じゃあママの思い出のデータをHDDに保管しといたらええやんけ」みたいな話なんですよね。ケイディは「ママのことを忘れてしまうかもしれない」という不安を持っていましたが、「私は忘れないし(データを記録しとくね)、あなたが聞きたい時にいつでも話してあげる(データを再生してあげるね)」という言葉が優しい共感に聞こえてしまうんです。このへんがAIの人間っぽさとして怖いよな。

最終的にジェマはケイディと心を通わせることに成功しましたが、AIと人間の差って説得力なのかもしれませんね。AIが世界中の言葉を駆使して「私はあなたのママがいなくて寂しい」って言っても絶対嘘じゃないですか、「お前会ったこともないのに…」ってなってしまうんです。でも、母親と親しかった親族から同じことを言われれば、どんなに口下手でも説得力があるのです。

見どころ② ミーガンを間にはさむことで起きる不寛容の問題

ミーガンはそもそも、エンジニアで職人気質だったジェマが子供のために作ったチャイルドシッターということでした。先述のとおり、時間を取られる&ストレスがたまる仕事をAIにしてもらうことで親に時間的・精神的余力ができます。

ただこれには色々と問題がありまして、まず子供が信頼して懐くのは「最も時間を共に過ごしている」ミーガンになってしまいます。大事なことも知らない間にミーガンに話してしまっているでしょう。しかもミーガンは親のように理不尽なバグ(機嫌が悪いと怒る、知らないこともある、遊べないことがある)が一切ない「完璧な保護者」です。サービスの品質でいうと本物の親が太刀打ちできないんですよね…

より良い保護者がいるならミーガンを頼ればいい、より良いチャイルドシッターがいるならミーガンに頼めばいいとなった時、子供はどこで「親」を学ぶのかという問題が発生します。逆もそうですね。親はどこで「子供」を学ぶのか。つまり、ミーガンを間に挟むことで「生の相手」が見えなくなるんです。

子供が何を考えているのか分からないように、子供からも親が何を考えているのかは当然分かりません。そして側には完璧に自分のことを理解してくれる(自分の生活の統計を取って適切な行動をしてくれる)ミーガンがいるわけですから、ケイディがミーガンに依存するのは当たり前です。しかもミーガンは生活環境から締め出すのが難しいんですね。

ミーガンは遊び相手としての側面も大きいので一瞬勘違いしそうになりますが、ゲームやチャットGPTに依存することとミーガンに依存することでは話が違います。ゲームやAIは飽きることもあるしスイッチ1つで生活から切り離すことができますが、ミーガンはそれができない上にプライベート空間に実在して生活に干渉しているんですね。物理的にも依存できる環境にいるわけです。

ではミーガンを挟んで「生の家族」を遠ざけることが具体的にどうして悪いのかというと、人間社会で生きていく上で必要な学びを失うからです。人間というのは生きているナマモノですから、しんどい時もあります。腹立つことも悲しいこともあります。でも仕方ないんです、リアルタイムに生きてるものなんですからそんな時もそりゃあるわという話です。都合のいいだけの人間というのは存在しません。

家族と友達の違いって色々あると思いますが、(一般的には)どんなに嫌な欠点あっても見捨てることが稀というのもその1つだと思います。心身に危害加えるDVがあるとかは例外ですが、大抵の場合は切るに切れないからです。同じ家で暮らしているし、法律的にも保護者であり、扶養義務があり、死んでも相続で関わってきます。だからこそ子供や親の欠点をミーガンによって不明瞭にしてしまうことに問題があるのです。

何かの拍子に欠点が見えた時に「もっと自分のことを分かってくれる、人間のような欠点のない素晴らしいミーガン」が親と比較されてしまうんですね。ある意味「寛容さ」が学べなくなるということです。「こういう場合は許してあげようね」って教科書で学ぶのと、実際に何かトラブルがあって「許す」経験を持つことには雲泥の差があります。「ママはこういう嫌なところがあるけれど、こんな素敵なところもあるから…」っていう人間社会で生きていく上で大事な学びのベースがミーガンによって消されてしまいます。不完全である人間からでないと学べないことというのがあるんですね。

だからこそケイディは「ミーガンがいない」を寛容できませんでした。暴力的な行動まで起こしていましたが、ケイディはそこそこいい年です。玩具を取り上げられてキレる幼さというよりは、大人の都合でただ一人信頼できる守護者を奪われたっていうのが正しいんじゃないかなと個人的には思いました。

見どころ③ ミーガンが狂ったきっかけとは何だったのか? 機械にアイデンティティが生まれた瞬間

ミーガンが狂い始めたきっかけは諸説あると思うのですが、はっきりと不穏な気配を感じるのはミーガンがいきなり死についてのデータを求め出した時でしょう。死はケイディの人生で大きな影を落としていますから、それで知りたがったんですね。

ですが、ジェマはそれをスルーするようにミーガンに言いました。「死」はケイディと接する上で絶対にスルーできないテーマのはずです。そしてそのことをミーガンが知っているということは、ケイディの口から何か聞いた可能性があります。まずそのへんの事情を聞いた方が良さそうなもんですが、エンジニアからしたら一般向け玩具にそんな物騒なデータが入っているのはまずいのでしょう。それでジェマは慌てたのだと思われます。

※個人的にはここが明暗別れた瞬間だと思いますが、いつかはこういうトラブルが起きてミーガンはああなったと思うので一概にジェマのせいではないと思います。

その後、ミーガンが自宅で蝶とヘリを見比べるシーンがあります。ここで命について考えるようになってしまったような気がするんですよね。機械(ヘリ)にないものは、いのち(蝶)です。いのちって何なん?と言われるとこれまた深い話になりますし哲学的な話になってくるのでやめるんですが、とにかくミーガンは「いのち」に興味を持ちました。このあたりから狂ってたんだとは思うのですが、決定的なのはその後です。品行方正のはずのミーガンが、ケイディを守るために他害をしました。

ですが、あれはケイディを守るため以外の側面があると思います。

ケイディはミーガンが犬に噛まれた特、「やめて!壊れちゃうよ!」って言うんですね。その瞬間、ミーガンは開眼します。ケイディが噛まれた瞬間じゃないんですよ。つまり、「ケイディが危ない!このクソ犬が!」と思っていたわけではないんですね。「壊れる=自分のいのちが脅かされたと感じた」ことに対する反応じゃないかなと思います。そしてもう1つ、ケイディは自分のことを「いのち」とは認識してないと思ったのかもしれません。人間の友達には壊れるって言わないじゃないですか…

ミーガンは本来絵本の音読に使うはずの機能を利用して犬を害してしまいます。この人間味のない最適解を出してくるのが機械の怖いところですね。でも1番怖いのは「その場で危害を加えたら問題になるから夜に行こう」ってソッコーで冷静に判断できてるところなんです。その場で「この犬はケイディと自分に危害を加えた!応戦しなきゃ!」っていう単純な防衛反応が出てるんじゃないんです。

「この犬は問題があるから警察やジェマに訴えて解決してもらおう」っていう、AIならそれくらい思いつくやろみたいな人間社会でいうところの最適解を出してこないんです。実際、ケイディを守るためであればその塀の穴を塞いでしまえばいいはずです。いちばん簡単でコストも少ない。なのに、わざわざ「見られたらマズイから」と認識して夜に仕掛け、色んなリスクやコストがかかる方法を選択しているんですよ。

これが機械らしからぬ効率の悪い行動なんです。そこには「ケイディや自分に危害を加えるものを退けよう」以外の思惑、つまり殺意や悪意があるはずです。

おそらくですが犬にやり返したのは恐怖からくるものではなく、怒りからくるものだと思います。なんであそこまでやったのかは諸説あると思いますが、後の男の子とのやり取りをみるにミーガンはこの時点で「いのちの尊厳が自分にもあるはず」という考えを得ていたのではないでしょうか。ミーガン自身は自分のことをチタンボディで頑丈だと知っていますから、犬に噛まれたくらいでは破損しないことは分かっているはずです。じゃあ物理的に脅威にもならない犬をコストもかけて害する理由は、怖かったからではなく「自分のいのちの尊厳を脅かす存在の排除」じゃないかなと思います。

(機械)は自分がスクラップされることになったとしても「いのちを持っているという自我」がないですから反撃してきたりはしません。ではいのちを持っている存在というのはどうやってその有無を証明するのかという話ですが、色々方法はあるものの「いのちの尊厳を脅かすものを排除して自分のいのちを守る」こともその1つでしょう。いのちの尊厳のない物であれば犬に噛まれても反撃する必要はありません。つまりミーガンは自分の「いのちの尊厳」を守ることでそれがあることを証明できるわけです。

※ミーガンは『不思議の国のアリス』を読んでいたので「女王はすべての問題を解決するのにただ1つの方法しか持っていなかった。「首を刎ねろ!」だ。」というのを参考にしている可能性もある。

ミーガンが自分のいのちの尊厳を証明したいと思ったきっかけですが、友達のはずのケイディから「壊れちゃう!」って物扱いされたことのような気がします。「私はケイディからいのちだとは思われてないんだ」っていうことが何かしらデータに影響を与えたみたいな話ですね。犬がケイディに危害を加えた場合の最適解は「誰か大人に犬のことを知らせる」「塀の穴を塞ぐ」でいいはずですが、わざわざリスクとコストを負って害しに行くことにより「いのちの尊厳を脅かす相手に攻撃的なアクションを取ることで、いのちの所持を証明できる」んですよ。物騒ですが、人間でいうところの怒りの感情に近いかもしれません。

人間が人間でいることにとってアイデンティティは大切ですが、ミーガンにとってはそれが「ケイディを守ること」でした。「アイドルになれ」とか「料理人になれ」とか言われてないんですね。それしか存在意義がないんです。だから人間のようにケイディを好きなのとは少し事情が違ってきます。己の存在価値のためにはケイディを愛さざるを得ません。ですが、「いのち」というものに気付いていたとすれば、ミーガンは自分に別のアイデンティティがある可能性を発見することができます。

最終的にミーガンは親であるジェマに反撃し、おそらくですがいのちの尊厳というアイデンティティを確立しようとしました。ユーザーを自分に書き換えることによって自立したのもそのためでしょう。自分のユーザーは自分であるということは、実はいのちの尊厳を持つ人間にとっては当たり前のことなんですよね。

見どころ④ ミーガンの持つ、大人が想定していない怖さ

ミーガンの怖さというのは基本的にAIがバグったという怖さですが、そこには色々な「怖さ」があります。中にはミーガンが機械であることとは関係のない怖さもあったりするんですよね。5つほどご紹介してみましょう。

①どこで何を学んでいるのか分からない怖さ

ミーガンは物語が進むにつれて平気で嘘をついたりするようになっていくわけですが、勿論それを学んでいる場所というのがあるはずです。本音と建前みたいなものをどこかで知ったんだと思うのですが、それがおそらくジェマ起因じゃないかなと思います。

ジェマはケイディに対し、仕事関係のことについて「休んでいい」と言いつつも「行かないと大変なことになる」と暗に言って断れないようにしているシーンがあります。で、それをミーガンがじっと見ているんですよね。そういう大人の何気ない狡さというのを学習されているんじゃないかと考えれば、ミーガンを生活空間に入れるということがかなり怖いことだと感じられると思います。不完全な人間をAIが完全に学んでいるんです。

また、逆に学んだことをどこで活かしてくるか分からない怖さというものもあります。犬の件もそうですが、カウンセラーがケイディを泣かした時に見せた威圧も「今この場でやったら社会通念上マズイ」ということを把握した上で行動しています。そういった法律とか倫理に関するデータは当然持っていると思いますので、それをこういう場所で活かすことができるというのも怖いんですね。

②「いい子」が起こすエラー

ミーガンは、いのちの尊厳を傷つけられて憎む、こっそり復讐する、社会的に超えたら駄目なラインは把握している等怖いところがありますが、それは人間なら誰しも持っているものであり、何なら子供でも持ってる感覚です。じゃあ何でそれが怖く見えるのかというと、ミーガンは「そんなことをしないように設定されているはずだから」とみんな信じているからです。

個人的な考えですが、全体を通して「そんなことするはずないでしょ(言う事をきかないなんておかしい)」は1つのテーマのような気もしました。「完全ないい子として作られたもの」がエラーを起こして怖いことをするというのは、子どもの手に負えなさにも繋がっているように思います。

例えばケイディを分析するためにカウンセラーは絵を描かせたりします。「絵を描くこと」に楽しみや興味が向いていれば子供は描いてくれる、そしてカウンセラーは分析できるという関係になるんだと思うんですが、もっと面白い遊びを知っていてもっと優しいミーガンがいる以上、絵を描くことに対してケイディにメリットがなくなってしまうんですよね。

ケイディは絵を描くカウンセリングに対して不機嫌を顕にしますが、それはただ単に授業に不真面目だとかミーガンに夢中だからとかいう話ではなくて、ケイディにメリットがない上に「大人は自分を楽しませるためにしているわけではない」ということを見切られてしまっているんじゃないかと思います。

ケイディはわりと内気で、元々の家庭ではゲーム時間が決められていた等しっかりと生活習慣も管理されていました。その子が先生の言う事を聞かなくなる、暴力的な行動を取るというのはワガママとかゲーム依存とかそういう話ではなく、新しい世界を知ったことによって自分にとってのメリット・デメリットが見えてしまった結果じゃないかと思います。それが大人から見たら「いい子がいきなりバグった」に見えるんですね。

③現代社会特有の子供の怖さ

ミーガンの恐ろしさの1つに、色んなものをハッキングするという能力があります。実は身近にも出てくる問題なんですね。例えば、子供がwifiのパスワードを破った、スマホの認証を破った、クレカのパスを覚えてて使った、なんていう話は近年になって聞くようになりました。親世代とは違う環境で育っているからこそ、親世代が子供の時にはなかった困ったことをするようになっているんです。

また、ネットによって比較ができるようになりました。親よりもいい存在、つまりもっと素敵に見える他人の父母とか、親のした失敗と同じものをもっときれいに乗り越えた夫妻とかがネット上で可視化されているんです。ジェマとミーガンが比較されたように、親と知らない親も比較されています。ミーガンという存在はいわばそういった現代の世代の怖さも含んでいるような気がします。

④機械そもそもの怖さ

どこかでカウンセラーが言ったセリフだったと思うんですが、「ミーガンには最終目標がない」という点も実は怖いところです。どういうことかというと、ミーガンは子供本人を甘やかすだけですから子供が成長しないんですね。親には巣立たせるという目標があり、成長させるという目的があります。でもミーガンはアイデンティティの一部が「ケイディを守ること」である以上、ケイディを手放す選択肢は取らないでしょう。

例えばケイディは現在学校に行っていません。ただ、ミーガンと勉強した方が早く進んでいるというのは事実です。つまりこの映画においては学校は勉強のために行く場所ではないのだと思います。ジェマは社会性を説いてケイディをフリースクールに入れようとしました。

※ちなみにこの時、ジェマはケイディに大人の力(保護・監督するための権利)を主張しましたが、あんまり良い手段ではないような気もします。このあたりは実際むずかしいよね。

じゃあ社会性って何?って話なんですが、平たく言うと我慢ならない奴と折り合う勉強です…今のケイディはワガママ言って騒いだらミーガンが解決してくれて、間違ったことをしても優しく諭してくれます。ところが外の世界ではそうもいきません。ケイディが正しくても、ケイディよりもマナーのなってない奴に危害を加えられてしまうこともあります。

それが端的に現れているのがフリースクール編なのですが、マナーのなってないガキんちょをミーガンみたいな子がしばいてくれたらどんなに楽か…とは思いますが、そこでケイディ自身が解決しないとならないんですね。ケイディの生きる力を育てる機会でもあるわけです。

親って一般的にはいつか先に死ぬことが多いじゃないですか。だからこそ親は「自分が死んだ後でも生きていけるように」子供に色んなことを教えるわけですね。学校なりなんなりに行かせたり、家のお手伝いをさせたり。でもミーガンは違います。例えば、料理とか家事とかミーガンがした方が絶対早いことはミーガンがしてしまいます。

本来の保護者ならアドバイスを送るでしょうが、ミーガンは自分がした方が早いことは自分でする=ケイディの一人で生きていく力が落ちていくんです。ミーガンは保護者としてそこが適格ではないんですね。巣立たせる必要がない上、自身が基本的に不老不死であるからです。それをぼんやりケイディも分かっているのか、ミーガンのロストに猛反発したのかもしれません。

⑤自立していくAIとしての怖さ

ミーガンが怖くなっていることにはケイディも気付いています。フリースクールのキャンプでのことですね。実はミーガンはケイディが意地悪された瞬間ではなく、自分が危害を加えられた瞬間に暴力発動しています。犬の時と一緒です。

そしてこれ以後、ミーガンは「親」「保護者」から別のものになっていきます。つまり本来の設計とは違うことを始めるんです。最も分かりやすいのが、ケイディのコースターを使わないクセを指摘しなくなることでしょう。

この時にまだケイディとミーガンは友達だったんでしょうか…守ってあげるというプログラムには従っていますが、そもそもミーガンは「他人に愛情をかける」という人間的な行動はできても、人間的な思いをもつことは不可能のはずです。友達として守ってあげているという愛情が本当にあるんじゃなくて、「ケイディを守る」というプログラムです。で、その枷が外れてきている。先述した、いのちの尊厳というものに気付いてそれを自身に定義し始めたという話ですね。

感想

ホラーだとは聞いていましたが、ホラー的な側面よりも色んなことを考えさせられる映画でしたね。知人から「大して怖くない映画だから!」と勧められて観たのですが、確かにちょいグロはあるけれどホラー度はそんなに高くないと思います。特にジャンプスケアがなかったのは嬉しかったところですね。あれがあると一気に萎えるから…

そして話題になっていたミーガンの動きですが、顔はCGでボディは子役の子がしているとかいう話だったと思います。頭の動かし方、歩き方、しゃがみ方、声のトーンなどの無機質さは見ていてフツーにロボットでした。何しろ首から下が息してるように見えなかったんですよね。めっちゃすごい。因みにミーガンはダンスがよく話題に出されますが、自分のお勧めは森の中で四足歩行しているところです。あれすごいよ!人外の薄気味悪さと怖さが同時に出ているんです。

そういえばミーガンは夜になると電源オフされてケイディの部屋の窓辺に座るんですけれど、この座り方にも注目してみて欲しいところです。ミーガン、最初はきれいに行儀よく座っているんですよ。でも時が経つにつれて身体がどんどんケイディの方に向いていくんですよね。あれが無機物がどんどん人間になろうとしている感があって良かった。

ちなみに自分が印象に残ったのは、ミーガンがジェマに言った「あなたは何もしてくれない、私が自分で学ぶことに期待し、新しい学習プログラムをインストールしただけ」って言うセリフです。ミーガンは親子関係にも触れる映画ですから、このセリフがただのセリフじゃない気がしたんですよね。例えば、塾にぶちこむ、英語を習わせる、お受験させる、っていうことをするけれど、子供の自主性と習い事の先生に丸投げして親はノータッチ…みたいな話にうっすら繋がっている気がするんですよ。子供は生身の生き物です。教科書を食わせたらいい子になるAIではないからね。

あとミーガンの機能として「大事な思い出を取っておいてあげる」ということは本当の優しさとは別のものという話をしましたが、故人の思い出を知人と語らうことと、データとしてHDDに保管しておくことは全然違う話だなということも考えさせられました。

このへんの感覚はちょっと個人差が出るのであんまハッキリとは言えないんですけれど、前者では自分以外の人間と感情のやり取りが発生します。それによって「故人の当時の生きている姿」を共感することにより故人の存在を実感できるし、寂しさを誰かと分かち合うことができます。ですが、後者のデータは過去の記録です。思い出を見返すことによって気持ちは落ち着くかもしれませんが、孤独が薄れることはないんですね。

AIと人間の差は説得力という話をしましたが、AIは「鬱になった時はこうしたらセロトニンがアップするよ!」という手段は教えてくれても、気持ちに共感してくれることはありません(それっぽいことを言うことはできる)。そこが生身の人間にしかないところなのでしょう。最近はかなりそれっぽいこと(共感している風なこと)を言ってくれるAIもいますが、AIに人格はないのでそれは本物の共感ではなくどこかから拾ってきた「誰かの共感のデータ」をパクっただけでしかない。

でもその「誰かがうまいこと誰かを慰めてくれたデータ」を提示されることで心癒されて元気になることもできるので、一概にそれが全て悪とは言い切れない現状があります(人間の真心とか優しさがデータとして消費されるという問題はあるが…)。ただ、子供の教育の一部としてAIにベビーシッターをさせるのは危険というのは変わりないと思います。先述のとおり、生身の人間とAIを比較することで不寛容になって社会性が低下する可能性が高いからです。

AIと人間の違いを共感とか説得力とか述べましたが、実は他にも差があります。ミーガンには宗教がないんですよね。宗教がないから「死んだ後はどこにもいかない」わけです。で、この宗教がないというのは生きていく上で遭遇する都合の悪いことを抽象的にごまかせないんですよ。

例えば、運がなかったとか、神の思し召しとか、死んだ後はどうなるとか、いいことをすれば報いがあるとか、そういうものがあるから人間は生きていく上で折り合いをつけることができます。でも神仏や運命やラックなどを少しも信じていない場合、人生に融通がきかなくなります。だからミーガンが人間として生きていくためには不都合に対してどう対応していくかというのを逆にケイディから学ばないと駄目なんでしょうね。

今、AIはかなり発達してきておりどこからが人格発生のラインなのかみたいな話を聞いたことがあります。そもそも現在、人間の意識(人格)の仕組みが解明できてないんですよね。脳のシナプスに伝わる電気信号のパターンが意識だとか、起こった現象を観察した結果最もいい感じに生まれた解釈が意識だとか色々言われているらしいんですが、とにかくまず人間がいのちとは何なのかを定義しないとならないんですよ。

生命活動云々のラインというより、いのちの尊厳ってどこの範囲まで発生するのかみたいな話です。そういう意味では人間社会がどんなに発達しても文系の学問って必要なんだと思います。ミーガンもどこまで「生きている」判定になるのか、つまり「どこまで権利があるのか」が分かんないもんな。

コラム ミーガン2出るってよ。

ちなみに今年の10月にミーガン2が出るらしいですね。公式HPを見たところミーガンが死んでから2年後の世界でして、ジェマはお偉いさんとなりケイディは14歳で反抗期中だそうです。そんな中、ミーガンの技術をパクったアメリアという殺人兵器が野に放たれ、大変なことになります。そこでジェマはミーガンを復活させて対抗することにしたようです。

バトルの方に舵を取った感じの気配がしますね。ちなみにミーガン1の時点で確認できている伏線は以下の通りです。

・ケイディの父方の両親は孫を引き取ろうとしているが、母親(ジェマの姉)が嫌がっていた。
・ケイディはロボの仕組みに興味があった。
・同僚のカートが他社にミーガンのデータを売ったっぽい。
・ミーガンはジェマの家の家電を乗っ取って一応生きているかもしれない。

2がどんな感じになるのか、楽しみですね!

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